高校のとき、親戚の家から通っていて煮しめと味噌汁とてんぷらの手伝いをした私は、飲食店もいろいろバイトしたし、料理をすることに関して全く抵抗はない。だけど、そのレパートリーの中にカレーやラーメンはなかった。煮しめならだしを取って醤油とみりんか砂糖か酒か何か作るだけだ。何も難しいことはない。
でも、昔長屋の続きにインド人が住んでいて、それ以来インドカレーは好きで、近くにインドカレー屋があるとどうも行きたくなる。
それで、この一年でやっと自分でもインドカレーらしいものを作るようになった。クックパッドみたいなのを参考にしてやり始めたのだが、クミン、コリアンダー、ターメリックなんかを使うのは、昔あったインドの人がやっていたのと同じだ。だけど、その人たちは、バラモンで具はチャンナカブリとかレンズ豆のような豆類だった。今私は無理せずに近くにある野菜や肉なども入れて家族が食べそうなものを作っている。長屋のインドの人がトマトや玉ねぎを使っていただろうか?はっきりわからない。それでも出来上がったものは十分インドカレーらしい味に仕上がっている。
このようにして作るカレーは純粋に薬膳料理で、私自身もインドのスパイス以外に、においのきつい野菜や家で取れた唐辛子、クコなんかも入れるようにしている。
インスタントラーメン、カレーというのは男性が作れる料理、いわば簡単な料理の代名詞のように言われる。しかし、「得体の知れた」材料で自分で作ろうと思うと、ラーメンやカレーほど難しい料理はない。インドカレーはインドの主婦が普通に作っているものだから、ある程度の香辛料で作れるわけだが、市販のカレールーには、さまざまな香辛料のほか、肉や魚を原料として特別にとられたうまみや小麦粉のようなつなぎが入っていて、とても素人が作れるようなものではない。またラーメンのだし汁など、私は想像もつかない。ちょっとばら肉か手羽先を買ってきて煮たてたぐらいではとても物足りない。
だから、カレーやインスタントラーメンなどという食事は、実に得体のしれないものだと思う。にもかかわらず、まるで今では日本を代表する食事になっている。
少し以前、何かのテレビ番組か何かだったと思うが、女優さんだかタレントさんだかがギリシャの肝っ玉母さんのところに体験宿泊して、農作業を手伝うという番組があった。ギリシャ人はやかましいよ、そういう伝統的なことは。ま、それはいいとしても、このタレントさんは、滞在の最後に肝っ玉母さんや近所の人にごちそうするということで、そこの畑で取れた農産物を使って料理をふるまった。そのときに日本から持参したカレールーで煮込んじゃったのだ。
これ、違反だよね。私はそう思った。カレーの味でいってしまったら日本のオリジナリティというか、その女優さんがギリシャの伝統に対してお返ししたことにならないのではないか。やっぱりどこかの企業がインド料理だかイギリスシチューだかをパックにしたものをつかっちゃいけないだろうと思ったのだ。
私の祖父・祖母ぐらいの世代の人間にとっては、この辺の食生活というのはほとんど自分たちの中で完結できるものだったと思う。味噌や醤油も家で作れる。お茶ですら家の茶畑でできる。逆にそこまで考えないといけないものだろうかとも思う。