多分ギリシャも変わったんだろう。
自分が行った頃、サムライ映画や空手で強い民族というイメージがあると同時に、おそらく日本人は信頼できないヤツ、悪いヤツだという思いがギリシャ人の中にはあったのだろうと思う。自分は古びたアシックスのトレーナーを着てどこにでも歩いて行った。日本人か?と言われたことはない。中国人や韓国人と思われていた。当時は日本人は「まあまあこぎれいな格好をして、眼鏡をかけてカメラをぶら下げている」と思われていたのだ。自分が住んでいたアパートの大家さんは「三船敏郎の出るチャンバラ映画」をビデオで見せてくれた。
今、自分は大人になり、会社に勤めている間に幸いなことに多くの国を訪問する機会を得た。そして、中国人がどんな人か、韓国人がどんな人か、いろいろ知る機会もあった。ざっといって、自分が行ったときには、ギリシャ人にとっては中国人はまあまあポピュラーな存在であり、韓国人も悪い印象では見ておらず、日本人はあまり知らない、というのが正直なところだったのではないだろうか。
何しろ、ギリシャは第二次大戦中ナチスドイツに占領されていたのだ。正面から戦いを挑んだりはしていないかもしれないが、ナヴァロンの要塞で映画になっているように、抵抗の歴史を持っている。日本はそのナチスドイツと組んだ国なのだ。
日本は第二次大戦中、民族差別をしないという原則を持っていた。多くのユダヤ人が、ドイツからシベリア鉄道を通り、日本経由で救われた。事実はそうなのだけれど、ギリシャに滞在している当の私自身がそんなことは知らなかった。今考えると、彼らは日本人に対してかなりの偏見を持っていただろうと思う。
今、ギリシャ人はみんなで楽しくぴちぴちピッチみたいな漫画を見ている。ぴちぴちピッチは日本ではポピュラーな作品ではないけれども、セーラームーンは日本でも有名だ。しかし、先日ロシア人の人に聞いたら、ロシアの女の子でセーラームーンを知らない人はいないと言っていた。ぴちぴちピッチで歌手を務めているヴァシア・ザハロプールさんもぴちぴちピッチに関するインタビューの中で、セーラームーンに言及していた。そして、日本についても当たり前のように話題に取り上げていた。当然と言えば当然だ。彼女が歌っているその漫画は日本で作られたものなのだから。
ピッチの中で、彼らはもんじゃ焼きを見、宇治金時を見、たこ焼きを見、日本の公園のジェットコースターや観覧車を見、カラオケを見、日本の学校生活を見、日本の都会を見ている。自分がギリシャに行った当時、なくはなかったかもしれないが、まだカラオケは世界を席巻していなかった。今カラオケは世界で知られている。自分が行った頃、ギリシャにはまるで自動販売機があるように教会があると日本のガイドブックに書かれていたが、逆に彼らはアニメの中で自動販売機の並ぶ店先を見て、今ではおそらく当たり前のように「漫画の中の日本の景色」として受け取っている。
ギリシャ人の日本に対する距離感はかつてに比べてずっと近くなっていると思う。自分は早すぎたのだろうか?
ただ、今思うことは、やっぱりあれこれ判断する前に、できれば一度行ってみるべきだ、ということ。こういうものなんだ、と頭で思っている先入観念は、やっぱり正しくないこともある。肌で知ることはとても重要なことだ。