この辺では、田んぼにいるヒルのことを「ヒイリン」という。学者さんはチスイビルなどと仰っているようだ。
昔は、田植え機がなかったし、地域の女性が協力し合って、地下足袋をはいて田に入って、一列に並んで田植えをした。そうすると、終わってあがったときにふくらはぎにヒイリンがくっついている。取るとそこからタラッと血が流れる。
今は田植え機があるし、指の割れたひざまであるような長いゴム製の靴もある。だから、まず噛まれるということはない。
しかし、田植え機がUターンするために残している田んぼの端っこの場所がある。そういう場所は平らにしなおして手で植えなければならない。そうすると、泥が立ってにごっているわけだが、待ってました、今から吸い付きますとばかりにヒイリンが泳ぎ始める。今から苗を植えようとしているところをすいすい横切っていく。
そういうところに足を入れると、長靴の周りに何匹もヒイリンがくっつく。なんとか血が吸えるところまであがってやろうと長靴のゴムを上ってくる。
それで写真でも撮ってやろうとおもって、田植えが終わってから田んぼに行ってみると、澄んだ田んぼの中にはヒイリンは見当たらない。
大体が、冬の間田の水は抜かれて乾燥していたはずなのだ。どこから出てくるのか、水を張った途端にうじゃうじゃ出てくる。
なんとも、不思議な生き物だ。