英語や、フランス語でもいい、多くのヨーロッパの言語を学ばれた経験があればそういう方でも、日本語の「恋」に相当する言葉がないことを不思議に思われたことはないだろうか?恋であったとしても、愛であったとしても、LOVE,、AMOUR、LIEBE、AMORE・・・のような気がする。「愛」のほかに「恋」という別の言葉はないように見える。
さて、ぴちぴちピッチ前半第9話、水妖のユーリが波音さんの慕う海月先生の新曲の楽譜を盗み、人魚たちを罠に陥れる話がある。立ち直った波音はユーリに向かって啖呵を切る。
「恋する乙女の底力、思い知らせてあげる!」
この「恋する乙女」の部分、英語の字幕が出る映像では「a girl in love」となっている。フランス語ではそのままの直訳ではないがgrand amour de ma vie(グラン・ダムール・ドゥ・マ・ヴィ私の人生の大きな愛)と言っている。
ギリシャ語では、η ερωτευμένη κοπέλα(イ・エロテヴメーニ・コペーラ)と言っている。コペーラは娘さん、エロテヴメーニが「恋する」なのだが・・・
昔の授業で、高校の倫理を履修された人は、ギリシャ語には二種類の愛という単語があるというのを習われたことと思う。
一つはアガペー(αγάπη、今の言葉ではアガーピ)でキリスト教の愛。もう一つはプラトンなどに出てくるエロースで男女間の愛だ。このエロースはそのまま日本語に取り入れられて、「エロス」と言えば、簡単に言えばスケベなこと、エッチなことのように日本では理解されている。
アガペーの動詞の形はαγαπώアガポー「私は愛する」でσ’αγαπώサガポはいわゆるI love you、逆にμ’αγαπάςマガパスは「君は私を愛している」だ。
一方エロースは現代語ではέρωταエロタで、前述のερωτευμένηエロテヴメーニはエロース状態にあるというような、ざっといって形容詞のような単語になる。
男女間でαγάπηが使われてないわけではない。初恋のことをπρώτη αγάπη(プローティ・アガーピ最初の愛)と言っている部分もあるし、厳密に区別がされているわけではないが、エロタ、エロテヴメーニと言っているのは男女間の関係に限る。またエロタがエッチなことにつながらないわけではない。エッチなこともエロタで表現する範囲には含まれる。しかし、だ。
ほかにもこんな用例がある。
「愛だとか恋だとか、私の柄じゃないんでね」(ぴちぴちピッチピュア20話)
αυτές οι έρωτες και ερωτικόν σχέσιον δεν είναι για μένα.(アフテス・イ・エロテス・ケ・エロティコン・スヘシオン・ゼニネ・イヤ・メナ)
「もしかしてリヒトさん、るちあのこと好きなんじゃないの?」(ぴちぴちピッチピュア22話)
Νομίζω ο Λιχτ είναι ερωτευμένος μαζί σου, Λουτσία;(ノミゾ・オ・リヒト・イーネ・エロテヴメノス・マジ・ス、ルツィア?)
このエロタとか、エロテヴメノス、エロテヴメニは、普通に日本語の「恋」とか「好き」に該当する言葉として使われているのです。愛はαγάπηアガーピなの。恋なんて柄じゃないと言っているリナさんもアガーピはOKなのです。
ギリシャ語はたぶん「愛」のほかに「恋」という言葉のある、珍しい言語なのだと思う。
でも、日本語もそう。一緒なんです。
これ、健全ですよ。なぜなら聖書を読んで「愛し合え」と言われたときにLoveしかなかったら、クリスマスイブにホテルに泊まらなきゃ仕方がないじゃないですか。